第81回 全国学校歯科保健研究大会参加報告

報告者 目黒区学校歯科医会会長  益山純太

1.開催期日 平成29年10月26日(木)・27日(金)	

2.開催地  青森県青森市

3.会場   リンクステーションホール青森(青森市文化会館)

4.目的   幼児、児童生徒、学生ならびに教職員の健康の保持増進を図るため学校歯科保健に関する調査研究を行うとともに、学校保健の普及および振興に努め、もってその円滑な実施に寄与する。

5.主題   「生き抜く力」をはぐくむ歯・口の健康づくりの展開を目指して
          -学校歯科保健からはじまる8020健康社会―

6.趣旨   21世紀は「健康の世紀」といわれており、医療の潮流は治療から予防へシフトし、「健康社会」の確立に向けた宣言が全国の組織・団体で行われている。全国では8020達成者の増加や子供たちのう蝕の減少など、国民の歯と口の健康状態は改善しているが、一方で歯肉炎の増加や咀嚼機能の低下など、子供の頃からの生活習慣に起因すると思われる課題も見えてきた。本大会では、子供たちの健康格差を少しでも解消し、将来に「希望」がもてる学校歯科保健活動を議論することにより、健康寿命への延伸に寄与する「8020健康社会」の実現を目指す。

7.主催   文部科学省、一般社団法人日本学校歯科医会、公益財団法人日本学校保健会、一般社団法人青森県歯科医師会、青森県、青森県教育委員会、青森市、青森市教育委員会

8.全大会
       1)開会式  日本学校歯科医会会長挨拶
       2)表彰式  文部科学大臣賞(6校・園)
              日本学校歯科医会会長賞(8校) 
              日本歯科医師会会長賞(11校・園)
              奨励賞(107校・園)
       3)基調講演 「健康長寿社会の実現に向けたライフコース・アプローチ」
                 講師 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生分野教授 辻 一郎
*講演要旨
 社会環境の変化が個人の行動に変容をもたらす。個人の生活習慣は社会環境や時代の価値観による影響を大きく受けている。その点を重視して「健康日本21(第2次)」では「健康を支え、守るための社会環境の整備」ということを5つの基本的方向の1つに位置づけた。
 厚生労働省の「国民健康・栄養調査」の結果からみても分かるように、人々の生活習慣に影響をおよぼす要因は、社会経済的要因である。健康格差は、所得の少ないものほどその影響をうけており、これは、成人だけの問題でもない。学校教育を通じて、子供たちに健康的な生活習慣を身につけさせ、健康に関する知識を与えるとともに健康リテラシーを育てることは、健康格差を減らしていくうえでも重要なことである。
 個人の自覚と努力による行動変容からなる従来型の健康づくりでは、弱者の健康ニーズは潜在化し健康格差は拡がる一方となる。少子高齢化の進む中、ライフコース・アプローチという考え方のもとで胎児から幼少期、そして成人期と高齢期までを通貫した健康づくりとともに、個々人の健康づくりを支える社会環境の整備が重要である。

9.シンポジウム
  「口腔機能の健全育成を求めて」のねらい
       座長  明海大学学長 安井利一
    発表3題が行われた

10.領域別研究協議会
  1)幼稚園・認定こども園・保育所部会
       座長 北海道医療大学歯学部口腔構造・機能発育学系小児歯科学分野教授 齋藤正人
    発表2題が行われた
  2)小学校部会
       座長 東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野教授 福本敏 
    発表2題が行われた
  3)中学校部会	
     座長 北海道医療大学歯学部歯科矯正学分野教授 溝口到
    発表2題が行われた 
  4)高等学校部会
       座長 東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野准教授 相田潤
    発表2題が行われた
  5)特別支援教育部会
       座長 奥羽大学歯学部口腔衛生学講座教授 瀬川洋
    発表2題が行われた

11.領域別研究協議会報告
   小学校部会に参加したので、東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野 福本敏教授の基調講演「口腔機能の育成を目指した小学校での歯科保健活動の実際について」と、長野県立諏訪市立四賀小学校 伊東初枝養護教諭、青森県三沢市立上久保小学校 高田美香保健主事の発表について報告する。

*講演要旨
 口腔機能には、咀嚼、嚥下といった機能に加え、発音や笑うといったコミュニケーションに大切な機能も含まれる。それぞれにおいて歯の役割は大きく、むし歯の無い口腔環境の育成は極めて重要な課題であ    る。むし歯は、その個人の生活スタイルや行動を反映するものであり、生活環境の改善から取り組まなければ、むし歯の発生リスクを完全に抑えることはできないという現実を十分に理解し、歯科保健活動を推進していく必要がある。
 現在では、いわゆる「むし歯の二極化」が生じており、むし歯のない児童が増加している一方で、多数のむし歯を有する児童も増加しており、このむし歯を多数有する児童に対する対策が急務と考えられる。このような場合、個別指導が大切との視点になりがちであるが、個別指導が行いにくいという生活環境も踏まえ、学校における集団指導の中での対応が重要となる。
 砂糖の摂取に関した間食指導は極めて重要であり、肥満の予防にも効果的である。WHOは液体物からの砂糖の摂取に関して緊急指針を提言した。成人において1日250ml(砂糖で25g)以下にするよう提言されているが、日本の6~11歳では78.7gと過剰摂取されている。エビデンスに基づいた知識の中で、清涼飲料水からの水分補給を適切なレベルになるよう指導する必要がある。これらのことを実践することで、むし歯予防のみならず肥満や糖尿病予防へ発展させることができる。
 毎日児童と接する教職員の口腔保健に関する知識の向上は、学校での歯科保健の推進の成否に大きく影響する。近年の医学研究の急速な発展や医療技術の向上と、インターネットの普及により、専門家からのアップデートされた情報を学びやすくなった。これらの情報を学び、学校指導の現場に反映させることが大切である。
 小児期における摂食や嚥下機能の低下や全身の運動機能の低下は、高齢化した際の機能低下をますます加速化させる要因となるため、早期に対策を講じる必要がある。今後、より高い歯科保健指導について議論されることが期待される。

発表1「知恵をみがく・心をみがく・体をみがく~学校歯科医・歯科衛生士・歯科ボランティアとの連携」
                        長野県立諏訪市立四賀小学校養護教諭 伊東初枝
   学校教育目標の具現化のため「みがく」をキーワードとし、「知恵をみがく・心をみがく・体をみがく」を重点目標としている。教育課程でも、健康な心と体を育てる健康教育を重点とし、歯・口の健康つくりを中心とした心と体の健康つくりに全校で取り組んでいる。歯科保健では、自分の歯・口の状態を知り、自分に合ったみがき方を身につけて、心も体もみがきつづける子供の育成「歯みがき名人になろう」を目標にしている。
学校歯科保健活動として以下のことを行っている。
(1)歯と口の学習をすすめよう
① よい歯の講演会
② 全学年での歯科保健授業
③ 年5回の歯ッピータイム
④ 児童活動として、毎日の歯みがき、6月の歯みがき旬間、11月の歯と口の健康週間、歯ッピータ
イム、8のつく日の歯の日、3のつく日の歯みがきサンバの日
⑤ 食育との連携

(2)ペアや地域の人にも教えよう
① ペアによる歯の染め出し
② 地域への発信
③ 歯ッピー教室

(3)歯みがきの技術の向上をめざそう
① 毎日の歯みがき指導
② 毎週のフッ化物洗口
③ 個別ブラッシング指導
④ 毎年の口腔写真撮影
⑤ 歯の日・歯みがきサンバの日
⑥ 家庭との連携、6年間蓄積する「歯ッピーブック」、歯のカルテ、歯みがきカレンダーと自己評価、
夏休み親子染め出し、年3回のピカピカチェックによる家庭での点検、年5回の歯ッピーだより

(4)学校歯科医・歯科衛生士・歯科ボランティアとの連携
① 歯科ボランティアの活動
② 歯みがき講習会
これらの継続した活動の結果として、本校のDMF歯数は、平成29年度集計で0.12となった。年間を通して、非常に多くの口腔衛生のための事業が行われている。その結果として、0.12のDMF歯数がある。子供たちの将来のために地域全体で取り組んでおり、子供たちも自らの力で取り組んでいる。

発表2 自分の心と体に関心をもち、進んで健康づくりに取り組む児童の育成
~歯・口の健康づくりをとおして~
                         青森県三沢市立上久保小学校保健主事 高田美香
    本校の教育目標は、「かしこくあれ、やさしくあれ、たくましくあれ」である。努力目標の「健康・安全に関心をもち、心身をきたえる」を受け、「元気パワーアップの学校」を目指している。重点取り組み事項として「早寝・早起き・朝ごはん・歯みがき」等の基本的生活習慣づくり、食育の充実、健康自己管理指導に取り組んでいる。学校保健目標として「自分の心と体に関心をもち、進んで健康づくりに取り組む児童の育成」を目指している。歯・口の健康づくりに関して、自分で健康づくりをしようとする子供を育てたい。
    (1)目指す目標は以下の通りである
     ① 歯垢を残さない適切な歯みがきができている
     ② 90%以上の児童が寝る前に歯みがきをしている
     ③ 良く噛んで食べる習慣がついている
     ④ むし歯になりにくいおやつを選び、間食後に歯みがきをする習慣がついている
     ⑤ むし歯を治療している
     ⑥ 新しいむし歯ができない
     ⑦ 歯ブラシの取り換え時期がわかり、取り替える事ができる 

    (2)歯・口の健康づくりの実際である日常の活動として
     ① 毎日の給食後の歯みがき
     ② 毎週のフッ化物洗口(三沢市では、平成12年から小中学校の児童生徒のフッ化物洗口を推奨しており、平成15年からは保育園、幼稚園の4歳以上の幼児においても行われる。現在の三沢市のほとんどの小中学生が4歳からフッ化物洗口をしていることになる。洗口液の処方は学校歯科医、調合は学校薬剤師が行い前日に学校へ届けられる。)

    (3)歯・口の健康づくりに関しての年間計画は以下の通りである
     ① 5月 全児童への生活習慣アンケート 
                 歯科健康診断
     ② 6月  各学年の歯みがき指導(各学年ごとにテーマを決めている)
          全国小学生歯みがき大会への参加
          むし歯治療勧告1回目
          親子すこやか研修会(参観日に学校歯科医から歯の健康についての講話)
     ③ 7月 夏休み歯みがきカレンダー
     ④ 9月  各学年むし歯ゼロ大作戦
     ⑤10月 各学年むし歯ゼロ大作戦
     ⑥12月 むし歯治療勧告2回目
              冬休み歯みがきカレンダー配布
     ⑦ 2月 キラリ歯みがき週間
    これらの活動を通し、正しい歯みがきが習慣となり、児童が進んで自分の歯を大切にする実践力を身につけたことにより、平成28年度の本校でのDMF歯数は三沢市平均を上回り、0.27となった。歯の健康は全身の健康に影響があることを学び、児童と保護者が一緒になって健康について考える機会をもつことができた。

12.本大会に参加して
   2日間にわたる全国規模の歯科保健大会であったが、シンポジウム、領域別研究協議会においての発表はすばらいしものであった。それぞれの教育機関においてそこに係るすべての人が幼児、児童生徒、学生の歯・口の健康づくりのために進めてきた地道な努力の積み重ねの結果であろう。地方と都会、地域としての社会的同一性など、各々の置かれた立場による違いはあるにせよ、一つの事業を行うに際しそこに係る人びとの合意がなければ達成するのは困難なものである。発表された教育機関の方がたに、深甚なる敬意を表する次第である。


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