令和5年度目黒区学校歯科医会研修会報告

“スポーツ選手のために歯科医師ができること”

2024年2月16日、4年ぶりに目黒区学校歯科医会研修会が開催されましたので報告させて頂きます。

今回は日本大学歯学部教授の月村直樹先生をお招きし、“スポーツ選手のパフォーマンスを上げるために歯科医師ができること”と題して貴重なお話を伺いました。先生は公認スポーツデンティストとしてラグビー、バスケットやパラスポーツ等選手の練習、試合中の外傷予防・対策や口腔ケアに従事されています。

 

講演要旨

1.スポーツ中の脳震盪について

練習、試合中に相手の頭、肘や膝が顔面に当たると歯だけでなく、頭にも衝撃を受ける。その衝撃により頭痛、吐き気、記憶障害や酔っ払った様な状態になった場合、脳震盪を疑う必要がある。脳震盪の放置は硬膜下出血やクモ膜下出血などの重篤な疾患に直結する理由からである。

特に子供の脳震盪は回復に時間がかかることや記憶・精神機能にも問題が起こりやすく、各スポーツにおける脳震盪に対するケアが厳格になり、ルール改正が行われている。

 

2.マウスガードについて

現在、如何なるスポーツでもマウスガードの装着は許されており、その使用が推奨されている。ラグビー、アイスホッケーなど使用が義務化されているスポーツもある。

その目的は

1)口腔内粘膜の保護

2)歯の破折、脱臼の保護

3)顎関節の保護

4)骨折の予防

5)脳震盪の予防

6)相手の選手にケガを負わせない予防

などがあり、

特に脳震盪に対するマウスガードの予防効果は今のところ明確なエビデンスはないが、咬み締めによる首の固定については証明されつつある。

 

3.歯の生活反応が戻ってくる“トランスジェントアピカルブレイクダウン現象”について

歯の脱臼性外傷により壊死に陥った歯髄が生活反応を取り戻す現象で、外傷により歯の変色が起こっても、経過観察すること(約1か月)で、生活歯髄に復活することがある。

 

4.歯牙欠損見舞金の支給について

独立行政法人日本スポーツ振興センターでは1歯の歯牙の欠損に付き歯牙欠損舞金 80,000円を支給することになった。

 

5.スポーツデンティストの役割

*コーチ等との綿密な連携の下、歯科医師の立場からスポーツに係る国民の健康管理、スポーツ障害、外傷の診断、予防、研究などに当たること。

*歯科医師の立場からスポーツを行うものに対する健康・体力づくりの支援すること。

*歯科口腔領域のスポーツ外傷に対する予防、診断、治療、リハビリなどを行うこと。

*競技会などの医事運営の支援並びにチームデンティストとして参加すること。

など

 

スポーツ選手は日頃の練習や試合に追われ、不適切な口腔ケアが多々みられるようです。機会があれば、彼ら本来のパフォーマンスが発揮できるように歯科医師として協力・支援していきたいものです。

2024年3月20日